特集骨髄異形成症候群(MDS)の最近の話題(4)骨髄異形成症候群(MDS)は加齢に伴って増加する骨髄性造血器腫瘍の一つで、造血幹細胞に蓄積するゲノム変異が発症に深く関与すると考えられている。治癒が期待できる治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが、高リスク例に対するアザシチジンのように予後を改善させる薬剤、5番染色体欠失例(5qマイナス症候群)に対するレナリドミドなど有効な薬剤が使用可能となっている。低リスク例においては赤血球造血刺激因子による貧血の改善、輸血後鉄過剰症に対する経口鉄キレート薬なども使用でき、全体としては治療の進歩が見られている。ここでは、MDSの最近の話題として、ゲノム変異を加味した新しいリスク層別化スコアリングシステム、新たな貧血治療、高リスクMDSの新規治療、MDSの新しい病態解明という4つのテーマを取り上げ、それぞれ千葉滋先生、前田智也先生、市川幹先生、林嘉宏先生にご解説いただいた。(責任編集:宮﨑泰司)
MDSの病態解明への新しいアプローチ
ミトコンドリアの過剰断片化が誘因かつ治療標的に
林嘉宏(東京薬科大学 生命科学部 生命医科学科 腫瘍医科学研究室)
2022.12.15
近年、次世代シークエンス技術の進歩に伴い、骨髄異形成症候群(MDS)の発症に関わる多種多様な遺伝子変異プロファイルが明らかになった。さらに、基礎研究や臨床研究により、MDS病態の発症機序解明が進み、特に炎症性シグナル経路の恒常的な活性化がMDSの病態形成における中心的機構であると認識されている。われわれは、この炎症性シグナル経路活性化のきっかけが、遺伝子異常のパターンによらず、MDSクローンにおけるミトコンドリアの過剰な断片化にあることを見出した。ここでは新たなアプローチによるMDSの病態解明と、治療の可能性について解説する。