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この論文に注目!Focus On

2022年11月の注目論文(Vol. 1)

張替秀郎(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2022年11月分(Vol. 1)は、張替秀郎氏が担当します。

Sleep exerts lasting effects on hematopoietic stem cell function and diversity

J. Exp. Med. 2022 Vol. 219 No. 11.

McAlpine CS., et al.

ここに注目!

睡眠は造血幹細胞の機能と多様性に長期的な影響を及ぼす

眠れなかった夜の後の気分は悲惨であり、睡眠によって体が息を吹き返すということは分かっているが、実際に睡眠障害の長期的な影響というのは十分には分かっていない。本研究では睡眠の障害が造血幹・前駆細胞に与える影響について解析した。
マウスを小刻みに刺激し睡眠障害の状態にして、その後の造血幹・前駆細胞の変化を解析したところ、細胞増殖が促進された。また、これらの細胞ではエピゲノム変化が生じており、骨髄球系へと分化の方向がシフトするとともに、感染症モデルでは過大な炎症反応が生じた。さらに、造血幹・前駆細胞における増殖圧は造血細胞のクローン多様性を縮小させた。この睡眠障害による造血幹・前駆細胞におけるエピゲノム変化と増殖刺激はヒト細胞においても認められた。
これらの結果から、睡眠はエピゲノムの調節・炎症産生の制限・造血クローンの多様性の維持を介して、造血の衰えを遅らせていることが示唆された。