2023年6月の注目論文(Vol. 2)
横山寿行(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 准教授)
張替秀郎(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 教授)
2023.06.22
血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2023年6月分(Vol. 2)は、横山寿行氏と張替秀郎氏が担当します。
Blood. 2023 Feb 14:blood.2022018996. doi: 10.1182/blood.2022018996. Online ahead of print.
Munz CM, Dressel N, Chen M, Grinenko T, Roers A, Gerbaulet A.
ここに注目!
造血幹細胞(HSC)は、通常静止期にあるが、大量出血や強い炎症など多くの血球が消費される造血ストレス下で活性化し、血液の再構築に関与するとされている。近年、マウスの解析から、HSCが枯渇した状態でも、造血前駆細胞の強力な自己増幅能力によって血液定常状態が長期維持可能であることが示され、造血ストレス下におけるHSCの役割についてより詳細な検討が求められていた。筆者らはHSCで発現するレポーターを用いたフェイトマッピング、GFP結合ヒストン2B蛋白を用いた細胞分裂トラッキングを用いて、造血ストレスに対するHSCの応答を測定した。その結果、HSCは放射線照射、抗癌剤(5-FU)投与といった骨髄破壊により細胞増殖と分化促進が認められた。Lipopolysaccharide(LPS)、G-CSFによる刺激では末梢血血球の増加がもたらされるものの、HSC由来の増加はなくHSCの増殖、分化には変化がないことが示された。さらに、pI:Cによる刺激では、投与回数を増やすことでHSCの増加、分化促進を認めるが、phenylhydrazine による貧血誘導刺激ではHSCの変化は認められなかった。この結果からHSCは骨髄破壊的なストレスの強い環境において細胞増殖、分化促進するものの、炎症や出血といったより日常的な刺激では定常状態から変化しないことが示唆された。