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この論文に注目!Focus On

2023年10月の注目論文(Vol. 2)

横山寿行(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 准教授)
張替秀郎(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2023年10月分(Vol. 2)は、横山寿行氏と張替秀郎氏が担当します。

Stochastic fate decisions of HSCs after transplantation: early contribution, symmetric expansion, and pool formation

Blood. 2023 Feb 23:blood.2022018564. doi: 10.1182/blood.2022018564. Online ahead of print.

Radtke S, Enstrom MR, Pande D, Duke ER, Cardozo Ojeda EF, Madhu R, Owen S, Kanestrom G, Cui ML, Perez AM, Schiffer JT, Kiem HP.

ここに注目!

造血幹細胞は、枯渇を防ぐためにほとんど増殖せず、自己複製と前駆細胞の産生のために非対称性に分裂するとされている。このため、造血幹細胞移植後の造血回復には短命の前駆細胞が主な役割を果たしていると考えられてきた。著者らは非ヒト霊長類に対する自己造血幹細胞移植後、頻回の血液サンプリングによる造血細胞クローンの追跡を行なった。その結果、造血幹細胞クローンが移植後早期の好中球回復に積極的に寄与し、血球産生の主要な供給源となっていることを示した。また、造血幹細胞クローン数は移植後急速に減少することが明らかとなった。これらの結果に基づいて構築されるモデルでは、造血幹細胞は非対称性分裂ではなく、分化して成熟血球産生に寄与するか、あるいは対称性に分裂して幹細胞プールの維持に関与するかが確率的に決定されることが示唆された。これらは造血幹細胞、造血再構築のメカニズムに関して新たな知見を提供するものである。