血液専門医と医療関係者のための情報サイト「ヘマトパセオ」

この論文に注目!Focus On

2024年7月の注目論文(Vol. 1)

宮﨑泰司(長崎大学 原爆後障害医療研究所 所長)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2024年7月分(Vol. 1)は、宮﨑泰司氏が担当します。

Molecular and clinical presentation of UBA1-mutated myelodysplastic syndromes

Blood. 2024 Apr 30:blood.2023023723. doi: 10.1182/blood.2023023723. Online ahead of print.

Sirenko M, et al.

ここに注目!

骨髄異形成症候群(MDS)領域では時に皮膚、粘膜、消化管、関節など様々な部位に感染とは異なる炎症像が見られる。そうした例の中で、ユビキチン関連遺伝子でX染色体にコードされているUBA1の造血(骨髄系)細胞における変異は、全身性に炎症症状を引き起こすと共に造血障害としてMDSを生じ、こうした例はVEXAS症候群と呼ばれている。この研究ではMDS患者におけるUBA1変異の頻度、臨床的特徴を明らかにするための検討が行なわれた。MDSを規定する遺伝子変異が同定されていない、あるいはWHO分類の病型に当てはまらない375例の男性MDS患者(コホートA)を対象にデジタルドロップレットPCRによる検討を実施したところ28例(7%)でVEXAS症候群を規定するUBA1遺伝子変異(p.M41T/V/L変異)が同定された。さらに2,027例のMDS(コホートB)に対してターゲットシーケンスによってUBA1遺伝子全体の変異を検索したところ26例(1%)に27個の変異が同定され、そのうちの12個は病的異常と考えられるもので、15個は変異の意義が明確ではなかった。コホートBでUBA1に病的と考えられる変異が同定された12例とコホートAでVEXAS症候群を規定する病的なUBA1変異を持つ28例を合わせた40例をまとめると、全員が男性であり、そのうち63%がWHO分類(2016年)で単一系統に異形成を示すMDSと診断された。これらの例はUBA1以外に中央値で一つの骨髄系遺伝子に変異を有しており、TET2(12例)、DNMT3A(10例)、ASXL1(3例)、SF3B1(3例)などであった。また、83%でVEXAS症候群関連の所見(血球の空胞など)、診断、あるいは臨床的な炎症症状を示していた。コホートAにおいてUBA1変異の有無による生存の差は見られなかった。これらの結果より、MDSと診断された症例においてUBA1変異は一定の頻度があり、MDSにおけるゲノム変異の一つとして検討が必要と思われる。