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この論文に注目!Focus On

2025年5月の注目論文(Vol. 1)

市川聡(東北医科薬科大学 内科学第三(血液・リウマチ科) 講師)
張替秀郎(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2025年5月分(Vol. 1)は、市川聡氏と張替秀郎氏が担当します。

An inflammatory biomarker signature of response to CAR-T cell therapy in non-Hodgkin lymphoma

Nat Med. 2025 Apr;31(4):1183-1194. doi: 10.1038/s41591-025-03532-x. Epub 2025 Apr 1.

Sandeep S Raj, Teng Fei, Shalev Fried, Andrew Ip, Joshua A Fein, Lori A Leslie, Ana Alarcon Tomas, Doris Leithner, Jonathan U Peled, Magdalena Corona, Parastoo B Dahi, Ivetta Danylesko, Zachary Epstein-Peterson, Tyler Funnell, Sergio A Giralt, Elad Jacoby, Meirav Kedmi, Ivan Landego, Richard J Lin, Allison Parascondola, Lauren Pascual, Natali Orozco, Jae H Park, M Lia Palomba, Gilles Salles, Amethyst Saldia, Heiko Schöder, Inbal Sdayoor, Gunjan L Shah, Michael Scordo, Noga Shem-Tov, Avichai Shimoni, John Slingerland, Ronit Yerushalmi, Arnon Nagler, Benjamin D Greenbaum, Andrew J Vickers, Hyung C Suh, Abraham Avigdor, Miguel-Angel Perales, Marcel R M van den Brink, Roni Shouval

ここに注目!

InflaMix:数学的手法を用いたCAR-T療法の新たな予後予測モデル

キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、再発・難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)に対する標準的な治療選択肢として位置づけられるようになったが、CAR-T療法後の病勢進行は依然として大きな課題である。今回著者らは、14個の臨床検査値とサイトカイン値(albumin, hemoglobin, PLT, WBC, ALP, T-bil, LDH, AST, D-dimer, ferritin, CRP, IL-6, IL-10, TNFα)による、定量的予後予測モデルInflaMix (INFLAmmation MIXture Model)を提唱している。このモデルは、Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterでCAR-T療法を受けたLBCL患者149人の治療前データを用いて、生物学的意義や臨床経過などの情報とは無関係に(unsupervised)、数学的手法を用いて構築され、患者群を炎症マーカーやサイトカイン値が高い“inflammatory”群と、そうではない“non-inflammatory”群の2つのクラスターに分類した。前者では後者と比較して完全奏効率が有意に低く、生存期間も短縮していた。この傾向は、年齢やCAR-T製剤の種類、腫瘍量などの既存の予後因子から独立して認められ、サイトカイン放出症候群の発生率には差がなかった。別のLBCLコホートや、濾胞性リンパ腫・マントル細胞リンパ腫のコホートでも、“inflammatory”群が一貫して再発・死亡の高リスク群であることも確認された。実際の臨床現場では全てのデータが揃わないこともあるが、一部データが欠損している場合や、albumin・hemoglobin・AST・ALP・CRP・LDHの6項目のみを使用した場合でも、InflaMixによる分類は精度が高く、予後との関連も保たれることが示された。さらに、異なる時点(細胞採取前、リンパ球除去療法前、CAR-T輸注前)でのInflaMixクラスターの変化が、予後の変化と関連することも示された。InflaMixは日常的な血液検査データを用いてCAR-T療法後の予後を予測する、実用的で価値の高いツールとなり得ると考えられる。