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気鋭の群像Young Japanese Hematologist

移植ソースの拡大、GVHD予防法の進歩に応じて
HLA適合度と移植成績の関連を多面的に解析(前編)

諫田淳也(京都大学大学院 医学研究科 血液・腫瘍内科学 助教)

京都大学大学院の諫田淳也氏
京都大学大学院の諫田淳也氏

HLA不適合の造血幹細胞移植では、重症GVHD発症や移植関連死亡リスクが上昇するが、移植ソースの拡大や新たなGVHD予防法の開発によって、HLA不適合の意義も複雑化している。京都大学大学院血液・腫瘍内科学の諫田淳也氏は、造血幹細胞移植におけるHLA不適合や、移植ソース、GVHD予防法の違いによる移植成績への影響などを多面的に解析してきた。そして、移植技術の進歩につれて変わるHLA不適合の意義について国際的なレベルでの解析も進めている。

 2018年に開催された第80回日本血液学会学術集会で、「欧州と日本における成人単一臍帯血移植における予後予測因子:Eurocord/EBMTとJSHCT/JDCHCTの国際共同研究」の結果を報告しました。この研究は、日本および欧州のレジストリーに登録されている成⼈単⼀臍帯血移植の成績を明らかにすることを目的にした国際共同研究で、結論としては、日本および欧州の患者とその移植の背景は大きく異なるものの、両レジストリーにおいて成人単⼀臍帯血移植成績に与える各因子の影響はほぼ同等だった、ということになりました。

 2016年に共同研究を当時の欧州骨髄移植学会(EBMT)の会長であったMohty先生に提案し、最終的には日本造血細胞移植学会とEurocord/EBMTが共同で、2017年に研究をスタートすることができました。

 欧米と比較し日本の臍帯血移植の成績は非常に良好であり、その理由に関しては非常に興味が持たれるところです。臍帯血移植後の死亡率に影響を与える因子として、全有核細胞数、HLA適合度、施設の移植経験数などの背景因子含め、各因子の影響について日本と欧州で別々に比較しましたが、それらの影響は両者でほぼ同等であり、成績の差を示唆するような結果は得られなかったという結論になりました。しかし、ドナーの選択基準や患者・移植背景には大きな違いがあり、もう少し踏み込んだ解析が必要かと思っています。

 この研究によって、日本と欧州による国際共同研究に携わることができたことは、HLA適合度と造血幹細胞移植の成績についての解析を続けてきた私にとって、重要な経験となりました。

Eurocordとの初めての打ち合わせ、2017年EBMTが開催されたマルセイユにて。一番左が諫田氏。
Eurocordとの初めての打ち合わせ、2017年EBMTが開催されたマルセイユにて。一番左が諫田氏。

学生時代は緩和ケア・ホスピスに興味
臨床現場で患者のそばにいる大切さを知る

 私は2000年に京都大学医学部を卒業したあとは、ほぼ一貫して血液内科医として診療を続け、並行してドナーが拡大し続ける造血幹細胞移植の成績を向上させるための研究を継続してきました。

 学生時代は緩和ケアに興味を持ち、ホスピス医になることが夢でした。国内だけでなく英国のホスピスや在宅ホスピスも見学し、勉強しました。そしてホスピス医になるには、まず腫瘍内科医になるのがベストと考え、京大病院の血液・腫瘍内科に入局しました。卒後2年目からは、大阪赤十字病院の血液内科で、通堂満先生の指導のもと、4年間臨床に携わりました。

 血液内科医になってまず感じたのは、血液内科はホスピスと方向性が異なることが多い診療科であるということでした。特に造血幹細胞移植は、患者さんの生への戦いが最後の最後まで繰り広げられます。少しでも可能性があれば、根治を目指して治療を続けることの大切さを知りました。特に白血病では若い患者さんが多く、本人は何とか治したいと望み、われわれ医療者も奇跡が起こり得ると考え、助けようと努めているのです。

 また、患者さんのそばにできるだけ長くいて、患者さんの「生きたい」という思いを聞くことが大切であることも教えられました。診療に対するその思いは、今も抱き続けており、それがその後の研究を始めるきっかけとなり、研究を続ける原動力になっています。

 医学部6年生のときに、私は日本骨髄バンクにドナー登録しました。血液内科医を目指そうと決めた頃で、早く人の役に立ちたい、ドナーとなって骨髄を提供したいと思ったからです。来る日も来る日も郵便受けをどきどきしながら開け、提供依頼の知らせを待ちましたが一向に来ません。もしかして、特殊なHLAの型なのかもしれないと考え、京都のHLA研究所の佐治博夫先生に相談し、自費でHLA検査をしました。結果は、日本人に典型的なHLAの一つで、バンク登録者30万人のうち1〜2%がこの型であることが分かりました。それだけドナーがいれば、提供の機会が来ないのは当然で、少し残念な気持ちになったことを覚えています。

大学院で分野の異なる3人の“師匠”に師事
ABO不適合の研究で世界に出る

 同種移植を行なうとGVHDを強く発症し、ときに致死的となる経験をたくさんしました。そして患者さんの病気を治し、治療成績を向上させるには、どういうドナーを選ぶかが重要だと考えるようになりました。自身のHLAの型を調べた経験もあって、HLAのハプロタイプに興味を覚え、これがHLA適合度と移植成績との関連を調べる出発点になりました。

 2005年に京大病院に戻り、1年間医師として勤務したのち、2006年に大学院に入学しました。早速、HLA適合度と移植成績についての研究に取り組むことにし、そこで3人の“師匠”に出会いました。川端浩先生(現・金沢医科大学)からは、基礎研究とはどういうものであるかという基本を学びました。一戸辰夫先生(現・広島大学)には臨床研究について、特にHLA不適合の研究について教えていただきました。そして松尾恵太郎先生(現・愛知県がんセンター)からは疫学と統計を教えていただきました。分野の異なる3人の師匠から多くを学び、そのバランスのもとで研究を進めていけたのはとても恵まれていたと思います。

 大学院での最初の研究は、血縁者間のHLA不適合移植約30例について、不適合度合いの意義を解析したものです。不適合方向は、GVHD発症のリスクとなるGVH(graft versus host)方向のHLA不適合と、生着不全・拒絶のリスクとなるHVG(host versus graft)方向のHLA不適合に分類されます。このうち、HVG方向の度合いと移植成績の関連について分析しました。結果を早速、EBMTに投稿しましたがあえなく不採択となり、今でも苦い思い出になっています。ただ、その年のEBMTへの参加が叶い、世界でどんな研究が進められているのかを知って大きな刺激を受けました。

 2つ目の研究テーマは、松尾先生と一戸先生のご指導のもと、ABO血液型の不適合が造血幹細胞移植に及ぼす影響を調べるというものでした。ちょうど大学院に入学した2006年頃から、それまで問題視されていなかったABO血液型不適合について、世界的に見直す動きが出ていたからです。発表された論文を読むと、どうも京大病院での成績と食い違うため、メタ解析を行なうことにしました。メタ解析という手法はこのとき初めて学びました。

 解析を進めるうちに、論文からはデータがきちんと拾えないものも出てきました。そこで、ある論文の責任著者にもう少し詳しいデータをもらえないか打診したところ、「それは興味深い研究だ。ぜひやってほしい」と、生のデータがどんと送られてきました。「これは重要な解析になるかもしれない」と考えた私たちは、メタ解析の対象としているすべての論文の責任著者に同じような依頼をしました。その結果、日本、米国、韓国、スロベニアの7施設から1,200例のデータを集めることができました。

 結果的にIndividual Participant Data(IPD)に基づくメタ解析となり、その結果を米国輸血・細胞治療学雑誌に投稿し、採択となりました。また、このテーマでEBMTに投稿、採択され、初めて国際学会でオーラルプレゼンテーションすることになりました。スロベニアと韓国の共同研究者も発表を聞きに来てくれて感激したのを昨日のことのように思い出します。

 世界的な舞台に上ったという感慨とともに、日本と海外のデータには差があることを実感し、これもやがて私の研究テーマとなっていきました。2005年にOh先生が『Blood』誌に「GVHD発症頻度は各国の中で日本において特に低く、これは日本人の遺伝子の均一性によると考えられる」と報告していますが、やがてこんな国際的研究をしたいと考えるようになりました。

2018年リスボンで開催されたEBMTにて、日本の若手医師と。右から4人目が諫田氏。
2018年リスボンで開催されたEBMTにて、日本の若手医師と。右から4人目が諫田氏。

〈後編では、米国での留学生活や帰国後~現在までに取り組まれたHLA不適合と移植成績の関連やGVHD予防に関する研究について語っていただきました。〉